人事担当者が Claude Code を使ったら、就業規則の更新と制度説明文書が2週間から2日になった
就業規則を最後に改訂したのはいつか——そう問われて答えられない会社は少なくない。
労働基準法、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法——近年、労働関係法令の改正は毎年のように続いている。法改正があるたびに就業規則を見直す義務があることは知っていても、「いつかやらなければ」と後回しになっているケースは多い。
その理由は明快だ。就業規則の改訂は「時間がかかる」からだ。現行規定を読み込み、改正内容との差分を整理し、新しい条文案を書き、社労士に確認を依頼し、従業員に説明する。採用・評価・給与計算と並行してこれを一人でこなしている人事担当者にとって、就業規則の改訂は「着手のハードルが高い業務」の筆頭です。
労務は守りの仕事です。しかし守るためには、書けなければいけない。Claude Code は、その「書く」工程の時間を大幅に短縮します。
1. 労務文書が「後回し」になる本当の理由
労務関係の文書作成が後回しになる理由は、忙しさだけではありません。
「書き方がわからない」という問題が根にあります。就業規則の条文は独特の文体があります。「〜することができる」「〜しなければならない」「前項の規定にかかわらず」——これらの表現を使いこなして、法的に有効な条文を書く経験値は、日常業務の中でなかなか積めません。
また、労務文書は「間違えると労務リスクに直結する」プレッシャーがあります。不備のある就業規則・労使協定が発覚した場合の影響を考えると、「専門家に任せた方がいい」という判断になりがちです。しかしそれは正しい。問題は、「専門家に依頼する前の叩き台を作る」コストが高いことです。
Claude Code の位置づけは明確です。「顧問社労士に相談する前に、自分でたたき台を作るツール」です。叩き台の品質が上がれば、社労士との確認作業も効率化されます。
2. 人事・労務担当者が Claude Code でできること(4種の文書)
2.1. 就業規則改訂案・各種規程の新設
変更したい制度の内容と現行条文を入力すると、改訂案の条文骨格が出てきます。法的な文体の特徴(「〜するものとする」「〜の限りではない」「前項の規定にかかわらず」などの表現パターン)に沿った文章が出てきます。
「改正の概要・変更したい内容・現行規定の該当箇所」を渡すと、改定前・改定後を対比した形で出力することもできます。社労士に確認依頼を出す前の「相談材料」として使うことで、確認の精度と速度が上がります。
ただし、Claude Code が法的な正確性を保証するわけではありません。これは正直に言っておきます。出力はあくまでドラフトです。最終的な内容の適法性は必ず社労士または法務の確認を経てください。この前提を理解した上で使うことが、正しい活用方法です。
2.2. 労使協定の説明文書・三六協定関連の社内案内
三六協定の更新案内、年次有給休暇の計画的付与に関する労使協定の説明文、フレックスタイム制導入時の従業員向け説明資料——労使協定は締結するだけでなく、「従業員が理解できる言葉で説明する」文書が必要です。
条文形式の協定文とは別に、「なぜこの制度を導入するか」「自分はどんな影響を受けるか」を平易に説明した社内案内文を作成する作業が、実際には相当な時間を取ります。Claude Code に制度の概要・対象者・効力発生日を渡すと、従業員向けの説明文の骨格が出てきます。
2.3. 入社・退職手続き案内の整備
入社時と退職時の手続きは、毎回同じ説明をする必要があります。「入社日に持参するもの」「社会保険の手続きの流れ」「退職日までに返却するもの」——これらをチェックリスト形式で整備しておけば、担当者の説明の手間が減り、本人が自分で確認できる状態になります。
Claude Code に「入社時の手続きを手順書として整備したい」と伝えて業務の流れを箇条書きで入力すると、誰でも読めるガイドの骨格が出てきます。従業員が「次に何をすればいいか」を自分で確認できる文書は、人事担当者の繰り返し説明コストを下げる効果があります。
2.4. 育児・介護関連の社内通知・制度説明文書
育児・介護休業法は2022年以降、毎年のように改正が入っています。育休取得率の公表義務化、産後パパ育休の新設、育休取得の意向確認義務——これらへの対応として、社内通知や制度説明文書の更新が繰り返し求められています。
「改正内容・変更点・従業員への影響・手続きの変更」を入力すると、全社員向けの改正対応通知の骨格が出てきます。法改正の説明を毎回ゼロから書き直す手間を、大幅に削減できます。
3. 実際の使い方——具体的な入力と出力のイメージ
ユースケース1: 育児休業法改正に対応した就業規則改訂案の作成
Claude Code への入力例:
以下の内容をもとに、就業規則「育児休業」に関する条文の改訂案を作成してください。
改訂前・改訂後を対比した形式で出力してください。
最終的な内容は社会保険労務士の確認を受ける前提のドラフトで構いません。
【改訂の背景】
2022年の育児・介護休業法改正で産後パパ育休(出生時育児休業)が新設された。
現行規定では産後パパ育休の記載がないため、追加が必要。
【追加・変更したい内容】
・産後パパ育休(出生時育児休業)の制度を新設する
・対象: 子の出生後8週間以内に4週間まで取得可能
・分割取得: 2回まで分割取得可能
・申請期限: 原則として休業の2週間前までに申請
・就業: 労使協定を締結した場合、休業中の就業が可能
【現行規定(育児休業の条文)】
第○条 育児休業
従業員は、1歳に満たない子を養育するため必要があるときは、
会社に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
出てくるアウトプットのイメージ:
【改訂前】
第○条(育児休業)
従業員は、1歳に満たない子を養育するため必要があるときは、
会社に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
【改訂後(案)】
第○条(育児休業)
第1項 従業員は、1歳に満たない子を養育するため必要があるときは、
会社に申し出ることにより、育児休業をすることができる。
第○条(出生時育児休業)
第1項 従業員は、子の出生後8週間以内に、通算して4週間を限度として、
出生時育児休業(以下「産後パパ育休」という)を取得することができる。
(以下、分割取得・申請期限・就業に関する条文が続く...)
ユースケース2: 制度変更の全社説明文の作成
Claude Code への入力例:
以下の内容をもとに、全社員向けの育児休業制度変更説明文を作成してください。
【変更内容】
・育児休業の取得意向確認を義務化(2022年10月法改正対応)
・妊娠・出産の申し出があった従業員に対し、
育児休業制度の説明と取得意向の確認を行うことが会社の義務となった
【従業員への影響】
・妊娠・出産を報告した従業員に対し、人事担当者が個別面談を実施する
・取得するかどうかの回答は自由意思によるものであり、強制ではない
【受け手・形式】
・全社員40名。社内Notionに掲載する説明文として。
・800〜1000字。不安を与えず、前向きに受け取れる書き方で。
操作の流れ
- 改正内容・変更したい制度の概要・現行規定の該当箇所を整理する
- Claude Code に渡して改訂案または説明文の骨格を出力してもらう
- 自社の文体・ルールに合わせて調整し、社会保険労務士に確認依頼を出す
- 確認後、正式な改訂手続き・社内共有に進む
4. よくある疑問と注意点
Q1. 就業規則の改訂案をAIで作っても法的に問題はありませんか?
Claude Code の出力はたたき台です。就業規則は労働基準法に基づく法的文書であり、最終的な内容は必ず社会保険労務士または弁護士に確認してもらってください。「AIで作ったたたき台を専門家に確認してもらう」というフローを最初から設計しておくことが重要です。たたき台を渡せる状態にするコストを下げることが、Claude Code の役割です。
Q2. 最新の法改正の内容を Claude Code は正確に把握していますか?
把握していない可能性があります。Claude Code の学習データには一定の時点があり、最新の法改正内容が反映されていない場合があります。改正の概要は厚生労働省や専門家の資料で確認し、その内容を入力として渡す形で使うことを推奨します。「法改正の内容を調べてもらう」用途より「改正内容をもとに文書の骨格を作ってもらう」用途に向いています。
Q3. 従業員の個人情報や評価データを入力していいですか?
渡さないことを原則にしてください。制度説明文や規程の改訂作業であれば、個人情報は不要です。個人が特定できる情報(氏名・評価点数・給与情報など)を使う必要がある場合は、必ず社内のセキュリティポリシーを確認してください。
Q4. 外国人従業員が多い場合、説明文の翻訳にも使えますか?
使えます。日本語の説明文を英語や他の言語に変換する用途にも活用できます。翻訳の精度は最終的にネイティブスピーカーか専門家に確認することを推奨します。
Q5. 評価制度の設計自体も相談できますか?
骨格の整理は可能です。「こういう組織特性があり、こういう行動を評価したい」という前提条件を渡すと、評価軸の候補や制度設計の論点を整理してくれます。ただし、自社の文化や戦略に合った制度の最終判断は、経営層と人事担当者が行ってください。
5. 労務リスクの観点から「書く」ことの重要性を再確認する
労務は守りの仕事です。労働者の権利を守り、会社と従業員の関係を適切に維持し、法令違反によるリスクを未然に防ぐ——これが労務担当者の本質的な役割です。
この役割を果たすには、文書が必要です。口頭で伝えた制度は証拠にならない。不整備の就業規則は、問題が起きたときに会社を守れない。労使協定の説明不足は、従業員の不満や誤解を生む。
労務における文書の整備は、リスク管理そのものです。
問題は、整備の「コスト」が高いことです。正確に書かなければいけないというプレッシャーと、書き方がわからないというスキルギャップと、時間がないという現実——これが重なって、文書整備が後回しになります。
Claude Code はこの「コスト」を下げます。正確性を保証するわけではない。でも、「ゼロから書く」という最初のハードルを消してくれます。叩き台さえあれば、確認・修正・専門家相談のプロセスに早く入れます。
「守るためには書けなければいけない」という現実に対して、Claude Code は現実的な解になりえます。
6. 育児・介護休業法の毎年改正にどう追いつくか
育児・介護休業法は2022年4月・10月、2023年4月、2025年4月と、短期間に複数回改正が入りました。今後も改正が続く見通しです。
この「毎年改正への対応」を一人でこなす人事担当者にとって、Claude Code の活用方法は明確です。
改正内容が公示されたら、厚生労働省のリーフレットや専門家解説を読んで改正点を把握する。把握した内容を Claude Code に入力して、就業規則の改訂案・社内通知文・FAQ更新の骨格を出力してもらう。その骨格を社労士に確認してもらい、正式な手続きに入る——このフローを定型化することで、毎回の対応コストを大幅に下げられます。
一度フローを作ってしまえば、次の改正時も同じ手順で進められます。「毎年また一からやり直す」という感覚から、「定型化された作業として処理できる」状態に変わります。
7. 導入時に失敗しないためのポイント
ポイント1: 規程・法律関連の文書は必ず専門家確認をセットにする
就業規則・雇用契約書・各種規程といった法的効力を持つ文書について、Claude Code の出力をそのまま採用することは避けてください。「たたき台として作り、専門家に確認してもらう」というフローを最初から設計することが重要です。専門家への依頼も「この叩き台を確認してください」という形にすることで、相談時間も短縮できます。
ポイント2: 全社員向けの文書は特にトーンの確認を丁寧に行う
制度変更の説明文や全社メッセージは、受け取った従業員の受け止め方によって職場の空気が変わります。Claude Code の出力はロジカルに整理された文章が出てきますが、「このトーンが自社の文化に合っているか」「不安を煽る表現が含まれていないか」は、担当者自身が確認してください。論理構成はClaude Code に任せ、文化的・感情的なチューニングは人間が行うという役割分担を意識してください。
ポイント3: 繰り返し使う文書はテンプレートとして蓄積する
就業規則の改訂、入社時のオリエンテーション説明文、評価制度の案内文——人事の仕事には定期的に繰り返す文書が多くあります。一度うまくいった入力パターンをテンプレートとして保存しておくことで、次回の作業時間を大幅に短縮できます。
8. こんな人に特に向いています
- 就業規則の改訂や各種規程の整備を一人でこなしている人事・労務担当者
- 法改正対応のたびに文書作成に追われていると感じている方
- 制度変更のたびに全社向け説明文を作成する業務を担っている方
- 従業員からの問い合わせに毎回個別対応していて、FAQが整備できていない方
- 採用・評価・制度設計と並行して労務文書も担当しており、手が回らない状況の方
- 人事部門を立ち上げたばかりで、規程類の整備が追いついていない企業の担当者
一方、給与計算・社会保険手続き・勤怠集計などの数値処理が主な業務は、専用の労務システム(SmartHRなど)を使う方が適切です。Claude Code は文書の言語化・整理を得意としていますが、数値計算は行いません。
9. claudecode道場で学ぶと何が変わるか
人事・労務担当者が Claude Code を実際の業務に組み込むには、「法律関連文書への活用の仕方」「個人情報を含む業務での使い方」「専門家との連携フローの設計」を体系的に学ぶことが近道です。
claudecode道場は、非エンジニアの経営者・担当者が Claude Code を業務で使えるようになるための研修プラットフォームです。malna株式会社が運営しています。プログラミングの知識は一切不要で、全19章(2026年4月時点)のカリキュラムが揃っています。
10. まとめ
人事・労務担当者が Claude Code を使うことで、就業規則の改訂案・社内説明文・入退職手続き案内・育児介護関連通知といった文書作成の時間を大幅に短縮できます。
「法的に正確に、かつ読みやすく」という労務文書の要件は、Claude Code の「入力された情報を構成よく言語化する」能力と相性がいい領域です。規程・法律関連は専門家の確認をセットにする、個人情報は渡さないという原則を守りながら活用することで、文書品質を維持したまま作業時間を削減できます。
就業規則を最後に改訂したのがいつか、答えられない状態からの脱出。Claude Code はそのための現実的なツールです。
malna では、人事・労務部門への Claude Code 導入支援を行っています。「自社の業務に合った使い方を一緒に考えてほしい」という場合は、ご相談ください。
※本記事の法規制に関する記述は、公開前に専門家(社会保険労務士・弁護士)の確認を受けてください。本記事に含まれる時間削減の数値は、特定の業務条件を前提とした参考値です。実際の効果は業務内容・環境・習熟度によって異なります。
