診察が終わって次の患者さんが待っている中で、「シャンプーは1週間我慢してください」「お薬は朝晩1回ずつ、ごはんの後に」という退院時の説明を、飼い主さん一人ひとりに口頭で繰り返す。電話が鳴り、明日のワクチン接種の予約確認の連絡をしなければならないことを思い出す。診察の合間には、新しく入ったスタッフに「うちの受付対応はこうしてほしい」という説明も必要になる。
動物病院・ペットクリニックの院長先生や受付スタッフが日々こなしているのは、こうした「診療そのもの」ではない、けれど診療と同じくらい時間を取られる文書業務です。
この記事では、動物病院の実務に即したClaude Codeの活用例を、飼い主説明文・予約リマインド・症例記録の整理・スタッフマニュアル作成という4つの場面に分けて紹介します。あわせて、動物病院ならではの制度上の注意点と、AIをどこまで使ってよいかの線引きも整理します。
なお、本記事はclaudecode道場(malna株式会社が独自に提供する学習サービス)のブログ記事であり、Anthropic公式の製品ではありません。
目次
- 動物病院の事務作業が抱える「翻訳業務」という負担
- 動物病院とヒト向け医療機関の制度の違い
- Claude Codeでできること:活用場面とプロンプト例
- 診断・治療判断にはAIを使わないという線引き
- 入力してよい情報・入力してはいけない情報
- 獣医療広告に関する注意点
- まとめ
- よくある質問(FAQ)
- 出典と関連記事
1. 動物病院の事務作業が抱える「翻訳業務」という負担
動物病院の事務作業の多くは、獣医師が診察室で伝えた内容を、飼い主さんが自宅で実行できる形に「翻訳」する作業です。
獣医師が「術後の患部を舐めないようエリザベスカラーを常時装着」と指示した内容を、飼い主さんには「カラーは食事とトイレ以外は外さないでください」と伝える。「フィラリア予防薬の投与間隔を1か月厳守」という説明を、次回の予約リマインドとして具体的な日付で送る。
この翻訳と、それに付随する書類・メッセージ作成の積み重ねが、受付スタッフや院長先生の時間の少なくない部分を占めています。動物病院で日常的に発生する文書は、おおむね以下のように整理できます。
| 文書の種類 | 主な目的 | 求められること |
|---|---|---|
| 退院時の説明文・指示書 | 自宅でのケア方法の伝達 | 専門用語を使わない具体的な行動指示 |
| 予約リマインド(電話・SMS・LINE等) | 通院・接種忘れの防止 | 簡潔さと次回来院日の明確さ |
| 症例記録・引き継ぎメモ | スタッフ間の情報共有 | 要点が漏れない整理 |
| スタッフ向けマニュアル | 業務品質の標準化 | 新人でも再現できる具体性 |
Claude Codeは、この4種類それぞれで「初稿を素早く出す」役割を担えます。ただし、これはあくまで文書作成の補助であり、後述するように診断や治療方針の判断に使うものではありません。
2. 動物病院とヒト向け医療機関の制度の違い
Claude Codeの活用を考えるうえで、動物病院は人間向けの病院・クリニックとは制度が異なる点をあらかじめ押さえておく必要があります。
広告規制の根拠法が異なる
人間向けの医療機関の広告は医療法・医療広告ガイドライン(厚生労働省)の規制対象ですが、動物病院・獣医師の広告は獣医療法第17条第3項に基づく別の規制対象です(農林水産省「獣医療広告制限見直しについて」)。同ページによれば、獣医療法施行規則第24条に基づき、広告できる事項が定められています。具体的にどの表現が可能・不可能かは改正時期によっても変わるため、広告文を作る際は最新のガイドラインを農林水産省の公式ページで都度確認してください。
個人情報保護法の対象範囲が異なる
個人情報保護法第2条は「個人情報」を「生存する個人に関する情報」と定義しています(e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」)。この条文の読み方として、保護対象は人間の情報であり、動物自体に関する情報(病名・体重・治療内容など)はこの定義に含まれないと解されます。
一方で、動物病院が扱う飼い主さんの氏名・住所・電話番号・メールアドレスといった情報は、人間に関する情報として個人情報保護法の対象になります。実際に動物病院の業界団体である公益社団法人日本動物病院協会も、個人情報取扱事業者として個人情報保護方針を公表しています(JAHA「個人情報保護方針」)。
つまり「動物の病状そのものは個人情報保護法の直接の対象ではないが、それに紐づく飼い主さんの情報は対象になる」という整理になります。ヒト向けの医療機関では患者本人の医療情報自体が要配慮個人情報として厳格に保護されるのに対し、この点は動物病院に特有の違いです。ただし、法解釈は個別の事情によって変わり得るため、実際の運用は顧問弁護士や個人情報保護士など専門家に確認したうえで設計してください。
3. Claude Codeでできること:活用場面とプロンプト例
ここからは、実際にClaude Codeへどう指示を出すかを具体例で示します。
例1:退院時の説明文(術後ケアの案内)
入力:Claude Codeへの指示
以下の情報をもとに、避妊手術を終えた犬の飼い主さんに渡す退院時の説明文書を作ってください。
【含めたい情報】
- 抜糸は術後10〜14日後に来院して行う
- 傷口を舐めないようエリザベスカラーを常時装着(食事・トイレ以外は外さない)
- 激しい運動・シャンプーは抜糸まで控える
- 食欲不振・傷口の腫れや出血が見られた場合はすぐに連絡
- お薬(抗生剤・鎮痛剤)は指示された日数分、朝晩1回ずつ与える
【読み手】犬の飼育経験が浅い飼い主さん
【フォーマット】A4・1枚に収まる分量
【語調】丁寧で親しみやすい。専門用語は使わない
このように指示すると、「見出し+箇条書き」の形で、専門用語を避けた説明文の初稿が数分で出力されます。出力された内容が実際の指示内容と一致しているかどうかの確認は、必ず獣医師が行ってください。
例2〜6:その他の活用場面
| 活用場面 | Claude Codeへの指示イメージ |
|---|---|
| 予約リマインド(LINE・SMS用) | 「次回のワクチン接種日と当日の持ち物(診察券・キャリー)を、120文字以内のLINEメッセージ用の文面にしてください」 |
| 専門用語の言い換え | 「『膵炎の疑いがあるため低脂肪食に切り替え』という説明を、飼い主さん向けに平易な言葉で言い換えてください」 |
| 症例記録の引き継ぎメモ整理 | 「以下の診療メモを、次のスタッフが5秒で要点を把握できる箇条書きに整理してください(メモの原文を貼り付け)」 |
| スタッフ向け受付マニュアル | 「初めて来院された飼い主さんへの受付対応手順を、新人スタッフでも迷わず実行できるチェックリスト形式にしてください」 |
| 予防医療の案内文 | 「フィラリア予防シーズンの開始にあたり、対象の飼い主さん向けに投与間隔の重要性を伝える案内文を作ってください」 |
いずれの場面でも、Claude Codeが担うのは「初稿を素早く出す」ことまでです。内容の医学的な正確性の確認と、最終的な文面の判断は、獣医師またはスタッフの責任で行う前提になります。
4. 診断・治療判断にはAIを使わないという線引き
ここが本記事で最も強調したい点です。Claude Codeは、症状から病名を推測したり、治療方針を決めたりするために使うツールではありません。
飼い主さんから伝えられた症状の内容をClaude Codeに入力し、「考えられる病気を教えてください」といった使い方をすることは推奨しません。理由は次の通りです。
- 動物の診断には触診・聴診・各種検査など、文字情報だけでは得られない情報が不可欠であり、AIはそれらを直接観察できない
- AIの出力は、入力された文章から統計的にもっともらしい候補を挙げるものであり、正確な診断を保証する仕組みではない
- 誤った候補を鵜呑みにすることで、獣医師の診断が遅れる、あるいは飼い主さんが自己判断で対応してしまうリスクがある
Claude Codeの役割は、あくまで獣医師がすでに下した診断・治療方針を、文書やメッセージという「形」にする作業の補助に限定されます。診断・治療の判断そのものは、常に獣医師が行うという原則は崩さないでください。
5. 入力してよい情報・入力してはいけない情報
動物病院でClaude Codeを使う際、入力してよい情報とそうでない情報の線引きをスタッフ間で共有しておくことが重要です。
入力してよい情報
- 説明文書に含めたい処置・ケア内容(既に獣医師が決定した一般的な指示事項)
- 文書のフォーマット・構成の指示
- 専門用語の言い換えの依頼
- 既存のマニュアル・案内文の文体を整える依頼
入力してはいけない情報
- 飼い主さんの氏名・住所・電話番号・メールアドレスなど、個人を特定できる情報
- 特定の飼い主さん・特定の動物に紐づく診療記録の原文(要点だけを抽出・匿名化したうえで入力する)
- 未確定の診断名や、獣医師が判断していない治療方針の推測
- 効果を保証するような未確認の医学的主張
第2章で整理した通り、動物自体の病状は個人情報保護法の直接の対象ではないと解されますが、それでも特定の飼い主さんと動物を結びつけた情報を外部のツールに入力することは、病院の情報管理方針に照らして慎重に扱うべきです。入力前に固有名詞を伏せる、一般化した表現に置き換えるといった一手間を徹底してください。
6. 獣医療広告に関する注意点
飼い主さん向けの案内文やホームページの文面をClaude Codeで作る際は、獣医療法上の広告制限にも注意が必要です。
獣医療法第17条第3項は、獣医師や診療施設の技能・療法・経歴等に関する広告を制限しています。目的は、獣医療について十分な専門知識を持たない飼育者が誇大な広告に惑わされ、不測の被害を受けることを防ぐためです(農林水産省「獣医療広告制限見直しについて」)。
Claude Codeで案内文やホームページ用の文章を作成した際は、次の点を確認してください。
- 「絶対に治る」「他院より優れている」といった、効果や優劣を断定・比較する表現が含まれていないか
- 広告可能とされている事項の範囲を超えた表現になっていないか
- 記載内容が最新の獣医療広告ガイドラインに沿っているか
具体的に何が広告可能で何が不可能かは、法改正のタイミングで変わることがあります。本記事の記述は執筆時点(2026年9月)に確認できた情報に基づくものであり、実際に広告文を公開する前には、農林水産省の最新の公式資料を確認するか、獣医療広告に詳しい専門家に相談することを推奨します。
7. まとめ
動物病院・ペットクリニックの事務作業の多くは、獣医師の診療内容を飼い主さんに伝わる形に「翻訳」する仕事です。Claude Codeはこの翻訳作業の初稿を素早く出す役割を担い、院長先生や受付スタッフは確認・修正・飼い主さんとのコミュニケーションに時間を使えるようになります。
一方で、診断・治療方針の判断にAIを使わないこと、飼い主さんの個人情報を入力しないこと、広告表現を専門家の確認なしに公開しないことは、いずれも省略できない線引きです。「文書作成の補助」として正しく位置づけたうえで使うことで、飼い主さんへの説明の質を落とさずに事務負担を軽減できます。
8. よくある質問(FAQ)
Q: 動物の症状を入力して、病気の可能性を調べてもらってもよいですか?
推奨しません。Claude Codeは触診・聴診・検査などの直接的な観察情報を扱えず、AIの出力は統計的にもっともらしい候補を示すものであって診断ではありません。診断・治療方針の判断は必ず獣医師が行ってください。
Q: 飼い主さんの名前や連絡先をClaude Codeに入力してもよいですか?
避けてください。氏名・住所・電話番号などは個人情報保護法の対象となる飼い主さんの個人情報です。文書を作る際は、固有名詞を伏せた一般化した内容のみを入力してください。
Q: 動物病院とヒト向けのクリニックでは、Claude Codeの使い方に違いがありますか?
活用場面(説明文・リマインド・マニュアル作成)自体は共通する部分が多くありますが、広告規制の根拠法(獣医療法と医療法)や、個人情報保護法上の扱い(動物自体の情報は対象外、飼い主情報は対象)が異なります。制度の違いを踏まえたうえで運用してください。
Q: 生成された説明文をそのまま飼い主さんに渡してよいですか?
そのまま渡すのではなく、必ず獣医師またはスタッフが内容を確認してから使用してください。Claude Codeの出力はあくまで初稿であり、医学的な正確性や病院ごとの方針との整合性は人が確認する前提です。
9. 出典と関連記事
引用した一次情報(2026年9月2日に内容を確認)
- 農林水産省「獣医療広告制限見直しについて」(獣医療法第17条第3項に基づく広告制限): https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/zyui/koukoku.html
- e-Gov法令検索「個人情報の保護に関する法律」第二条: https://laws.e-gov.go.jp/law/415AC0000000057/20220401_502AC0000000044
- 公益社団法人日本動物病院協会「個人情報保護方針」: https://www.jaha.or.jp/site-info/privacy-policy/
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※本記事に含まれる時間削減の数値は、特定の業務条件を前提とした参考値です。実際の効果は業務内容・環境・習熟度によって異なります。 ※本記事の法規制(獣医療広告制限・個人情報保護法等)に関する記述は、公開前に獣医療分野に詳しい専門家の確認を受けてください。



