AIが作った設計文書の「言葉」が実は破綻している理由【対応表で曖昧な独自用語を防ぐ】
AIに設計文書や調査レポートを書かせたとき、こんな経験はないだろうか。
読んでいる間は「なるほど、専門的だ」と思えるのに、後で見返すと、その文書の中心にある言葉が結局何を指しているのか誰も説明できない。
これは書き手の能力の問題ではなく、AIが文章を生成する順序そのものに原因がある。
1. 「それらしい言葉」が思考を止める
AIに設計文書や対策案を書かせると、まだ整理しきれていない部分を、それらしい熟語や造語でまとめてしまうことがある。
例えば、ある調査レポートの見出しに「圧縮時点」という言葉があったとする。本文を読み進めると、この一語が次の3つの意味を行き来していた。
- 会話履歴が一定量に達したこと(条件)
- 自動要約を始めるしきい値(値)
- 実際に要約が始まる瞬間(事象)
文章としては流暢で、技術文書らしく読める。しかし「条件」「値」「事象」という3つの異なるものを1つの言葉が兼ねてしまった時点で、その文書が何を説明しているのかは誰にも分からなくなる。
この現象は、AI活用に関する国内の発信でも指摘されている(参考: Yuichi Uemura氏によるX投稿)。指摘によれば、この問題はClaude Codeよりも他のコーディングエージェント(Codex)で目立って起きやすいとのことだが、業務文書の生成全般に共通しうる注意点として押さえておく価値がある。
同じことは、業務プロセスの要約でも起きる。「原因はまだ分からない → 検証する → 結果から切り分ける → 対策を選ぶ」という4段階の話を、AIに短くまとめさせると「観測を一つに集める」のような、それらしいが中身のない一言に潰れてしまうことがある。短い言葉にまとまった瞬間、その裏にあった4つの手順は文書から消えてしまう。
2. 「言葉の間違いリスト」では防げない
一度こうした曖昧な言葉に気づくと、「次からはこの言葉を使わないでください」と指摘したくなる。
しかし、これでは根本的な解決にならない。止めたいのは「同じ間違った言葉を繰り返すこと」ではなく、「対象がはっきりしないまま、先に言葉を置いてしまうこと」だからだ。今回の間違った言葉を禁止しても、次のセッションでは別の新しい造語が生まれるだけになる。
対策すべきは言葉のリストではなく、言葉を生成する順序そのものである。
3. 対策:本文を書く前に「対応表」を作らせる
具体的な対策はシンプルだ。設計文書や命名の作業をAIに依頼するとき、本文をいきなり書かせず、次の項目を持つ表を先に作らせる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 目的 | 何のためにこの要素を扱うか |
| 具体的に指しているもの | 抽象化する前の、具体的な事実や状態 |
| 役割 | 条件・状態・事象・値・記録・目的・手段のどれか |
| 前後関係 | この要素が発生する順番(他の要素との関係) |
| 使う言葉(案) | 具体的な内容が固まった後で、最後に当てはめる名前 |
ポイントは「使う言葉」を表の一番最後に置くことだ。具体的な内容と役割が埋まらない限り、名前を決めさせない。この順序さえ守れば、「圧縮時点」のように複数の意味を持つ言葉が生まれる余地がなくなる。同じ言葉が2つの役割を兼ねそうになったら、それは1行にまとめず、行を分けるべきというサインになる。
本文を書くときは、この対応表に載った言葉だけを使うようにAIへ指示する。これだけで、もっともらしいが空洞化した独自用語が入り込む前に、生成AI自身が気づけるようになる。
4. すぐに使えるプロンプト例
Claude CodeやCodexに設計文書・調査報告・命名を依頼するときは、次のような一文を添えるだけで試せる。
「本文を書く前に、扱う要素ごとに『目的・具体的に指しているもの・役割(条件/状態/事象/値/記録/目的/手段のいずれか)・使う言葉(最後に決める)』の対応表を作ってください。表ができてから本文を書いてください。」
とくに次のような場面で効果を発揮する。
- 設計資料や要件定義書の作成
- 原因調査・原因切り分けのレポート
- 新しい概念・状態・条件に名前を付ける作業
- 複数ステップの業務プロセスを短く要約する作業
逆に、単純な文章の引用や、すでに定義済みの用語だけで書ける短文には不要だ。使いどころを絞ることで、余計な手間を増やさずに済む。
まとめ
生成AIは、空白を空白のまま保つのが得意ではない。対象や目的がまだ定まっていなくても、もっともらしい言葉を置けば文章は続けられてしまう。その流暢さは、設計文書や業務プロセスの整理においては危険にもなり得る。
「良い言葉を探す」のではなく、「言葉を決める前に、指している中身を先に固める」。この順序を守るだけで、後から設計全体を作り直すような手戻りを避けられる。



